生徒指導提要改訂は3月29日に試案が公開され、試案を追加修正された素案が7月22日に公開された。
積極的生徒指導を強く打ち出し、特に、いじめ未然防止教育、暴力未然防止教育、自殺予防教育など、未然防止・予防教育を強く打ち出しているのが特色の一つだ。
ただ、2015年道徳の教科化が決まり、名目上、「いじめ・自殺防止に道徳の教科化を」によって、それまで道徳の時間に行うことができていた
構成的グループエンカウンターやソーシャルスキル、ストレス学ぶ授業は行えなくなった。東日本大震災、熊本地震、北海道胆振東部地震の被災地では、道徳の時間に、心のケア授業(自分のストレスやトラウマストレスを知り、望ましい対処を体験的に学ぶ授業)を行えなくなった。
なぜ、児童生徒の苦悩に寄り添った教育政策とならなかったのかの反省は必要だが、予防教育・未然防止教育の充実は待ったなしだ。
2021年3月8日参議院予算委員会では伊藤孝江議員が小1から高3まで心の健康授業を行えるようにと質疑し、文科大臣は総合的な学習の時間でも行うことができると答弁した。
試案を読むと、総合的な学習と生徒指導の項はあるが、心の健康やストレスを総合的な学習で学べるという記載がなかったため、関係者に、そのことを申し入れた。
今回、素案ができたことで、もう一度よく読むと、各論;いじめ、暴力・・・などには、授業として、総合的な学習についての記載があることに気づいた。試案では、記載されている位置がみつけにくいことも一因だったが、いじめ、暴力の未然防止には、総合的な学習が活用できることを文科省が発信していると理解してよい。
そのうえで、気づいたことを列挙したい。
生徒指導提要改訂版(7月22日時点、3月29日時点)を読み直してみました。
未然防止教育に関していれば、
5.3.2暴力行為の未然防止教育 には
暴力行為の未然防止をねらいとする教育としては、特別の教科である道徳、総合的な学習(探求)の時間、特別活動などの時間を活用し
・教職員が、暴力や非行をテーマとした授業・ガイダンスをおこなうこと、
・外部の講師を招いて、暴力防止、非行防止、薬物乱用防止、ストレスマネジメント、アンガーマネジメントなどに関する講和を行うこと
(外部の講師だけでなく、担任とスクールカウンセラー共同の授業がいいのですが)
と記載されており、授業の枠も明示しておりわかりやすいです。これは、3月29日時点版でもおよそ同じ内容(書きぶりはもっとわかりやすくなっています)が記載されていたことに気づきました。
また、
4.3.2いじめの未然防止教育には
・・・生徒指導はもとより、教科の学習、道徳や総合的な学習(探求)の時間、特別活動、体験学習などを通じて継続的に行うことが大切です。(129p)
と記載されています。これも3月29日時点版にも記載されていましたが、文章の置かれた位置が未然防止教育の冒頭にあり、わかりやすくなりました。
ただ、いじめの構造やいじめ加害をする児童生徒の心理や背景・ストレスについての視点はあるのですが、いじめ被害が心身にどのような打撃を与え、どうすれば回復できるかについての学びの視点が抜けているようです。それには、心の健康教育、授業の枠としては、保健授業(小5と中1しかないのですが)と総合的な学習の時間が使えると思います。
6.5.2喫煙、飲酒、薬物乱用防止に関する指導 には
学校における喫煙、飲酒、薬物乱用防止教育は、・・小学校の体育科、中学校及び高等学校の保健体育科、特別活動の時間はもとより、道徳、総合的な楽手の時間等の・・・
と記載されており、項のタイトルは、・・・に関する喫煙・飲酒・薬物乱用防止教育 の方がわかりやすいかなと思いました。
第8章 自殺
では、自殺予防教育の構造が記述され、大変わかりやくいのですが、「総合的な学習(探求)」という文言がみあたりません。大人の自殺は経済不況と関連があったり、コロナ禍で若者の自殺が増加したり、有名人の自殺報道によって増加するなど社会現象と緊密に関連することもあり、ぜひ、「総合的な学習(探求)」をどこかに入れていただければと思います。
なお、非自殺性自傷(non-suicidal self-injury)が入ったことはとても良かったと思います。
厚労省のHp「自傷」というサインには、自傷が脳内ホルモンを分泌させ、つらい記憶や感情を和らげる働きがあり、しかし、繰り返すうちに、ホルモン分泌が少なくなり効き目がなくなり、傷が深くなり、自殺のリスクがあがる、そのため、本人に寄り添いながら、自傷でないつらい記憶感情への対処方法の提案(松本俊彦2009)が大切だとされており、これは、保健か総合的な学習の時間での学びが適切だと思います。
また、不登校の章では、
10.3.2 課題未然防止教育 とあり、不登校未然防止教育と書けないのはわかるのですが、
心理教育プログラムの授業時間・活動時間が道徳が教科になり、道徳の時間が使えなくなったため、とても時間数がとぼしいのが現場の現状です。
出来事➨考え➨感情➨行動 の考え・感情・行動のトライアングルを小学校中学年から毎年テーマを変えて学ぶこと(試合でミスをしてチームが負けた、期末テストの成績が悪かった、好きな人に告白してふられた、LINE既読スルーなど)で、悲観的考えをする傾向がないか考え、ほかの考えはないかを探す学習です。これは鬱予防、不登校予防、自殺予防につながります。これは、道徳ではなく心の健康授業でできることです。現行では道徳の時間ではむずかしいので、総合的な学習の時間を年間計画を立てて行うことかなと思いますが、
つぎの学習指導要領改訂では、道徳の年間35時間を「心の教育」の時間として、道徳20時間、心の健康15時間などバランスのとれた改革を望みます。
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