NHK視点論点「子どもの心のケア~ 心の健康授業の制度化を~」
【2011年4月3日に岩手県庁を訪問した時、県教育委員会の先生や救急救命の医師から「阪神・淡路大震災で、できたことと、できなかったことを教えてください」と言われました。】
>救急救命医は秋冨慎司先生、当時岩手県庁で、ITを駆使して、医師として被災地支援に全力を尽くしておられました。おそらく、秋冨先生がいなければ、いわて子どもの心のサポート事業で、約14万人のストレスチェックを教育相談に活用し長期的視点にたった子ども一人一人の声を集積するシステムはできなかったのではないかと推測します。
秋冨先生は現在Covid-19対応で日本医師会総合政策研究機構客員研究員として、日本医師会発信の文書をとりまとめています。全校休校要請で、つらい状況を強いられているひとり親家庭、子ども食堂支援などでも奔走されておられます。
当時学校教育室田村忠課長とは、岩手県臨床心理士会の研修会で初めてお会いし、そのときの発言から、この方であればと、岩手はだいじょうぶ、スクラム組めると直感しました。人との出会いは、一瞬で、わかるものですね。子どもFirstだと。
【私は「できたことは、兵庫県教育委員会が個別にサポートを要する児童生徒数を15年間報告したことです。できなかったことは、児童生徒一人一人の変化を追っていくことができなかったことです」と言いました。】
>兵庫県教育委員会は、個別に配慮を要する児童生徒数だけでなく、その要因分析も行ってきました。震災トラウマ(地震のショックがよみがえるなど)で個別支援を要する児童生徒は経年で減っていきましたが、家庭経済・家族関係などで個別支援を要する児童生徒は増えていったことを示しました。これはどんな災害でもいえることで、経済復興もふくめ地域社会の復興が結果として子どもの心のケアになるという視点を投げかけかけました。また、兵庫県教育委員会は5年後に、震災学校支援チーム(EARTH)を立ち上げ、そのチームの発想は、熊本県、宮城県、三重県でのチームの立ち上げにつながっていきました。
【「では岩手は、阪神・淡路大震災で、できなかったことをやります」と言われ、私たちが提案した心のケアプログラムを参考に、「いわて心のサポートプログラム」を打ち立てたのです。】
>今も、岩手を1ヶ月に2-3日訪問しています。来年度は、2か月に1回になり、スーパーバイザーも終了します。この9年間、家族を亡くしたお子さんたちが成長してく姿に、遠くから立ち会わせていただきました。というのは、先生方が毎日寄り添い、彼らを応援していっていたからです。私がほんの少しできたことがあるとすれば、応援する教員たちを応援することでした。スポーツ大会で入賞したとき「(亡くなった)お父さんお母さんに報告した?」とさりげなく声をかけておられた養護教諭の先生。それを聴いて<すごいですね。すばらしい声掛けですね。亡くなった人とお話しできるようになると睡眠・学び・趣味が充実していきますから。>と。被災から7年後、ある中学校ではひとりの生徒さんが授業に集中できなくなった、落ち着かない、そんなとき、「心のファイル」を見直して、その生徒さんの被災状況と、これまでのストレスチェックの結果をみて、かかわりに活かしていました。「心のファイル」は、年に1回の結果が、蓄積されて表示され、何年生のとき要サポートでどの項目でストレスを訴えているか一目でわかるようになっています。
【ストレスチェックは子どもが自分のトラウマを知るためにカテゴリーごとにまとめ、望ましい対処法を伝えました。
びっくり興奮(過覚醒)には、リラックス法を。思い出してつらい(再体験)には、信頼できる人に話を聴いてもらう。避けていることには少しずつチャレンジを。避難訓練などの防災教育はつらいことを思いだすきっかけになり、どきどきすることがあるけど、それは自然なこと。落ち着くリラックス法を練習して、自分のペースでチャレンジするといいよと伝えました。】
>トラウマの心理教育でもっとも難しいのは、「回避への少しずつのチャレンジがストレス障害のリスクを減じる」ということを理解し実践することです。被災地の教師へ「心のケアと防災教育アンケート」を回収し分析していますが、これに関する心のケア効力感は低いです。
このストレスとトラウマについて、子どもも教師もしっかり学ぶ時間が学校教育のなかでないのです。後半、このことを訴えます。
>今の新型コロナウイルスへの反応の中心は過覚醒と予期不安だと思います。ちょっとした情報に、過度に反応してしまい、トイレットペーパーを買いに急いだり、デマ情報かどうか確認せずに思いこんでしまうわけですよね。対処としては、まずは、落ち着くことですね。そして、信頼性の高い情報をあつめて、対処することでしょうか。
【そして、教師やスクールカウンセラーがそのストレスチェックを参考にしながら個別面談をしていきました。ストレスチェックを教育相談で活用するだけでなく、岩手県教育委員会は集計した結果を分析して毎年公表していきました。】
【(スライド3-1)この図はストレスチェックの結果からサポートを要する児童生徒数の割合を「沿岸」と「内陸」にわけて示したものです。震災時0才から5才だった子の結果をみると、沿岸は内陸より要サポートの割合がとても高いです。小学1年時をみると、0才は3.1%、1才から5才は6.1%から9.4%も高いです。これは、震災後の心のサポートが、長期に必要なことを示しています。しかし、学年が進むにつれ、サポートを要する児童の割合がぐっと減っています。学校は子どもの安全・安心を守り回復を促す場になっているのです。(スライド3-2)震災時の各学年の推移をみることで、どのような教育政策が必要かを考える貴重な資料になります。(スライド3;終り)】
>学校はすごいですよ。小1のとき、半数以上が落ち着かず、席にすわれない状態から、小3でもすっかり落ち着いて勉強ができるようになるクラスがおおいんですよ。これ、岩手の教師力なんでしょうか。宮城、福島はどうでしょうか。
>これは毎年3月11日ころにプレスリリースされています。沿岸と内陸の数値データをグラフにして、報告しています。ディレクターの阿世知さんに事前に、発災時の年齢・学年すべて入力した結果のグラフを送ったところ、<これでは視聴者は理解できません。>それで、短い時間に伝えるため、発災時、0才から5才までの結果を表示したものを送りましたら、<これはわかりやすい、これでいいです>といわれました。沿岸と内陸の違いが明瞭に表示されています。この1本1本のラインに、何人もの子どもの声がつまっているのです。そして、学年が進むにつれ,ほとんど小3で落ち着いていきます。これは、教育現場の声とも一致します。震災にかぎらず、養育が不安定で、小1で落ち着かない児童も、教師の日々のかかわりで、落ち着いていったようすを目の当たりにしました。学校の力はすごい!岩手の教師力はすごい!
>発災時6才のグラフ、ちょっと特異です。小1のデータは、内陸と同じくらいですが、小2でぼんと高くなっています。小学校入学直前のこどもたちだったわけです。低いのは、押し込めていたんだと思います。そして、この学年の子たちが、中学3年生なんです。「おれたち、また卒業しきできないのか!」という声があがっているそうで、岩手はまだ感染者いないのに、この休校要請は、だれのためのものなんでしょうね。
【この災害後の心のサポート授業は2016年の熊本地震、2018年の北海道胆振東部地震でも行われています。】
>今回は、熊本地震、北海道胆振東部地震後の子どもの心のケアについてふれることができませんでしたが、この2つの地震災害は、「防災教育と心のサポートを一体的に進めること」の重要さを実践的に確認していった災害です。いつか、発信したいと考えています。
【心の健康授業の理論はストレスマネジメントです。
ストレス反応を引き起こす原因にはさまざまなストレッサー、出来事があります。災害、試験、ケンカ、ウイルスなどさまざまです。それら出来事により、気もち、からだ、考えが変化するストレス反応が起きます。しかし、人にはストレスに対処する力があります。試験には、勉強、災害には防災教育といった「ストレッサーへの対処」と、プラスメッセージやリラクセ―ションなどの「ストレス反応への対処」の2つがあります。この両方の良い対処が重要です。もう一つ、出来事を受けて、心のなかで、「自分はだめだ!」とか「無視したな!」とかのつぶやきが、悲しみや怒りを引きおこします。もし、ネガティブなつぶやきのままだと、いじめや暴力を引き起こすとともに、うつや自殺リスクを高めます。それらを予防するためにさまざまな「心の健康授業案」が開発されています。】
>この部分は、本番打ち合わせで、シナリオも、絵も差し替えがはいった箇所です。事前に用意していたのは、つぎの文章でした。プロデューサーの新山さんは、事前に用意したスライドの文字が多すぎると指摘され、この理論を説明するには、1時間はかかりますので、それを1~2分で話すのですから、大変です。話すことばと、スライドが一致しないといけないのは学生のプレゼンテーションでもやかましく指導してきたことですが、公共の電波でとなるとさらにシビアさが要求されます。この変更は、よかったです。「心の健康授業」で子どもが笑顔になるなんて、わかりやすい。さすが、NHK!
「さまざまな心の健康授業案」も、9つの指導案についてスライドに織り込んでいたのですが、それも削除しました。「冨永良喜編(2015)ストレスマネジメント理論によるこころのサポート授業ツール集.あいり出版」とスライド下部にいれていたのですが、これは宣伝になるのでだめですと削除になりました。最初に、著書紹介で入れようとも思ったのですが、長いタイトルのためにあきらめました。誠信書房刊行の「災害後の時期に応じた子どもの心理支援」をいれえばよかったとちょっぴり後悔。
【元原稿】同じ出来事を経験しても、ストレス反応には個人差があります。個人差の要因のひとつの「体質」を変えることは難しいですが、「ストレス対処」と「受けとめ方」を学ぶことで、ストレスをコントロールできるようになります。「試験」には「勉強する」という「ストレッサーへの対処」が第一に重要です。でも、一生懸命勉強したのに本番であがってしまって実力がだせなかった。それはくやしいので、「ストレス反応への対処」として、落ち着く方法やプラスのメッセージを事前に学びます。「ストレッサーへの対処」と「ストレス反応への対処」をバランスよく身に着けていきます。もう一つは「受けとめ方」です。(スライド4-2)さまざまな出来事を経験したとき、心の中で思わずつぶやいています。その心のつぶやきが怒りや悲しみを引き起こしていることに気づき、落ち着いたつぶやきを探す練習をします。それはうつや自殺予防につながります。すでにさまざまな「心の健康授業案」が開発されています。
【「心の健康授業」は、今の学習指導要領では、小学校高学年と中学校の「保健体育」の教科書に掲載されています。しかし、9年間でわずか7コマしかありません。小学1年生から4年生にはありません。そのため、年に1コマの「心のサポート授業」でさえ、授業時間を確保するのが難しいのです。また、「眠れない」、「こわい夢を見る」といった子どものメッセージを大人がしっかり受けとめ聴く時間が必要です。その個別面談の時間も正規に確保されていません。】
>1月に福島子どもの心と未来を育む会主催、シンポジウム、若者からのメッセージがありました。発災当時小学生だった若者が、転校先で、自分の思いを担任の先生にも話す機会はなかったといわれました。司会の私は「え、教育相談週間ってなかった?」て尋ねたら、「三者面談はありましたが、教育相談週間はなかったといわれました」。私はショックを受けました。教育相談に熱心な県、そうでない県、熱心な教師、熱心でない教師、ばらつきがあるのは県や教師の課題というより、国の制度がしっかりできてないからだと思いました。大学の教員養成課程では教育相談論は必須ですが、学校現場で、全ての教師が教育相談の方法を研修する時間がないんです。もちろん、教育相談講座は県教育センターは毎年開設していますがすべての教師が受講するわけではないのです。
この福島のシンポジウムまでは、道徳の時間30コマ、心の健康の時間5コマで、心の教育とすると考えていたんですが、個別相談は、一見、教師ならだれでもやれそうで、奥が深いし、教育相談に年間5コマあてることができれば、かなり、しっかり児童生徒ひとりひとりと話ができるのではと思います。個別相談は一人5分でいいんです。そして、もっと話を聴きたい児童生徒にはスクールカウンセラーにつなぐということをしたり、場合によっては、スクールカウンセラーも5分面談できればいいわけです。岩手は小規模校が多いので、スクールカウンセラーが全員面談をしているところは多いです。個別相談の時間は、さすがに、道徳の時間ではできないでしょう。道徳は、いくら考え議論するといっても、かくあるべきで教える時間ですよ。子どもの声をしっかり聴くという方法論は道徳学にはありません。これは心の健康学でないと位置づけが明確になりません。
【中国では2008年四川大地震のあと、四川省は「心理健康授業」を小学1年生から毎週1コマの必修にしました。今、「心理健康授業」は中国全土に広がっているそうです。】
>いま、Covid-19対応で、中国心理専門家は、心理健康教育師を軸に、ITを駆使して、WEB授業、WEBカウンセリングを行ってます。2008年に四川大地震後に、阪神淡路大震災、台風23号、インド洋大津波での支援経験をもとに、中国の心理専門家への研修を行ったころの中国と今の中国はまったく異なります。
https://2018asdt.wixsite.com/asdt/news
【一方、わが国は2011年のいじめを苦にした大津の自殺事件のあとに、いじめと自殺を防止するために道徳を教科化し、2018年度から実施しています。しかし道徳が教科となったために、心のサポート授業は、道徳の時間に行うことができなくなりました。もちろん、道徳性を学ぶことは必要です。でも、「心の健康授業」を小学1年生からできるようにしてほしいのです。】
>いじめ・自殺・子どもの犯罪の防止のためにわが国の教育政策が検討された契機は、1995年の阪神淡路大震災と1997年の神戸児童連続殺傷事件です。神戸市教育委員会と兵庫県教育委員会は「心の教育緊急会議(座長・河合隼雄)」を設置しました。そして、その会議は「心の教育の充実に向けて」という提言をとりまとめました。その提言を受けて、兵庫県教育委員会は、中学2年生の1週間の社会体験学習「トライやるウィーク」をはじめました。神戸児童連続殺傷事件では、中学3年生が逮捕されたため、中学生が幼稚園や保育園に行くことに、当初地域の人からの心配や反発がありました。しかし、中学生が熱心に取り組み、大人の心配は杞憂におわりました。地域で子どもを見守り育てるという意識が高まり、中学生の9割以上が、「やってよかった」と感想を述べ、そのため今もこの事業は続いているばかりか、全国に広がりをみせています。もう一つ、提言を受けて設置されたのが、兵庫県心の教育総合センターでした。不登校やいじめにあった子どもたちが相談に行く機関としてだけでなく、予防的な活動として、心の教育を授業としてできないかと、心の授業案を教師たちと作成し、発信し続けていきました。2006年には、「命の大切さを実感させる教育プログラム」として、体系化しました。
一方、文部科学省は、2,002年4月に小中学校の全児童生徒に道徳の副読本として「心のノート」(座長・河合隼雄)を作成し配布しました。「心のノート」は道徳ノートでした。心の健康は全くはいっていませんでした。早寝早起きしなさい、は入っていましたが。
【そこで提案です。(7:15)
(スライド5)年間35コマの道徳の時間を、「心の教育」として、「道徳」と「心の健康」の両輪で構成します。そして10コマは「心の健康授業」にあてます。「心の健康」の教科書は心理学・医学・教育の専門家が作成します。小学校低学年児童には、ストレスという言葉を使わずに、怒りや緊張の表情絵を用いた授業をします。いじめや暴力ではない怒りの表現の仕方があることを体験的に学びます。「心の健康授業」は担任が養護教諭やスクールカウンセラーと協働で行います。学年に応じたストレスチェックを活用して、担任やスクールカウンセラーとの個別面談を行います。その時間も心の健康授業として確保します。ほかの児童生徒は、心の健康の教材を読み、リラックス法のビデオをみて復習します。多忙を極めている教師が、休み時間などを使って個別面談をするのではなく、ちゃんと正規の時間を確保します。(スライド5;終わり)】
【大学の教員養成課程では、「心の健康学」の下、「ストレスマネジメント論」と「教育相談論」を学べるようにします。児童生徒にストレス対処法を教えることは、教師が自分のストレスをみつめる時間にもなります。また、暴力トラウマが長期にわたり人を苦しめることを学ぶ機会にもなります。】
【東日本大震災から9年、震災トラウマにより心のケアが必要な児童生徒は少なくなっていますが、養育上の問題・家族間関係・貧困など背景に震災の影響がある児童生徒は多く、長期のサポートが必要です。そして、全国的に、いじめ・虐待・頻発する災害は社会的問題となっています。そして、今起きている感染症への社会不安も例外ではありません。結果対応の政策だけでなく、ストレスやトラウマの予防教育である「心の健康授業」を制度化することは、災害からの心の回復を促し、いじめや暴力を抑止し、危機事態に対処する力を培うため、緊急の教育改革が必要です。(9:33)】
「感染症への社会不安」をいれることはディレクターの提案でした。これは今の課題なのでいれてよかったです。
生放送でないので、取り直しできると思ってましたが、プロデューサ~は「言い間違えたら、そのとき言いかえてください。そちらの方が臨場感あるので」といったようなことをいわれました。一発勝負です。手元の原稿が正面に映し出されます。プロンプターですね。手元で、原稿をめくってはなすのですが、途中で、「もっとはやく」と催促がはいったので早口になって、つばが口にたまってしまいました。自分の顔はみえないので、コントロールできませんでした。口角泡を飛ばす一歩手前でした。終わって、録画された映像をみて「泡が・・」というと、阿世知ディレクターは「熱が伝わっていいんじゃないですか」とフォローしてくれました。プロデューサーは「文部省の方がみていただいたらいいんですが」といってくれました。
2015年関西熱視線で、NHK大阪の石川さんにお世話になり、石川さんがNHK解説室チーフプロジューサーになられており、今回声をかけていただきました。NHKの石川さん、阿世知さん、新川さんに感謝いたします。
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