特別の教科「道徳」のねらいと教材(1)内容項目(授業のめあて)と読み物教材の乖離
「特別の教科」道徳の小学校学習指導要領解説(文部科学省 H29)から抜粋した
道徳性を培うために行う道徳科における学習
(1) 道徳的諸価値について理解する
(2) 自己を見つめる
(3) 物事を多面的・多角的に考える
(4) 自己の生き方についての考え方を深める
をみれば、道徳の時間にこのような学習をするならば、なんとすばらしいことかと多くの者は思うだろう。
自己をみつめ、物事を多面的・多角的に考え、自分の生き方について考えを深めることを小学校から中学校では毎週1コマ学習をしている。なんとすばらしいことかと。
そして、これらの学習をすすめるために、4つの内容項目の柱―主として自分のこと、人とのかかわりのこと、集団や社会とのかかわりのこと、生命や自然崇高なものとのかかわりのことーがあり、合計22の内容項目が設定されている。これが一コマずつの授業のめあてになる。例えば、個性の伸長:小5・6年「自分の特徴を知って,短所を改め長所を伸ばすこと。」
とある。これに相当する教科書をみてみる。ここでは、学研の小5のページをあけてみる。
78-80p わたしのこと 17日本の「まんがの神様」 考えよう ①まんがの才能がみとめられたとき、治はどんなことを考えたでしょう。 ②あなたの長所はなんですか。その長所をどのようにしてのばしていきたいですか。
81p つなげよう もっとかがやく自分になるためには( )さんに聞きました!
私の長所
理由
一言メッセージ
私の直したいところ
( )さんからのアドバイス
手塚治さんの物語が3ページにわたり記載されており、治はちいさいころいじめられっ子だったが、家にまんががたくさんあり、いじめっこがあそびにきて、しかも、いじめられないための作戦に、治はまんがをかき、それでクラスの人気者になった。ある日、授業中に治がかいた漫画を同級生が読んでいて、それを先生にみつかった。先生は「大いに、まんがをかきなさい。君はきっと将来まんが家になれるだろう」とほめてくれたという物語です。
この物語自体は大変興味深いですよね。
道徳の手法は、このように、登場人物の心情を推し量って、最後に、自分のことを考えるというストーリーがほとんどです。
手塚治さんの物語を読んで、授業のめあてである「自分の特徴を知って,短所を改め長所を伸ばすこと。」が達成されるだろうか?児童は、心のなかで何をつぶやくだろうか?
「ぼくは、いじめられたら脱出する作戦も立てられないな。だってなにもないから」
「すごいなー。ぼくにはこんなすごいこともってないな」
偉人の物語を読んで、自分の短所をあらため長所を伸ばすことにつながるだろうか。
そして、81pつなげよう は、ワークシートになっている。自分の長所は自分では気づきにくいので、友だちからメッセージをもらう活動である。これは、構成的グループエンカウンターの手法のひとつだが、手塚治物語を読んで、このワークを45分で行うのは、とても無理がある。しかも、このワークは、細心の注意が必要である。ふざける児童が多いクラスでは、傷つくメッセージを友だちが送るかもしれない。もし、このワークをやり、「自分の特徴を知って,短所を改め長所を伸ばすこと。」を児童が体験できるようにするには、物語教材を前段に置くのではなく、自分の特徴は、自分で気づくこともできれば、友だちから「こんなことすごいね」っていってもらうと、そんな自分もあるんだよ。とワークの目的を記すべきだろう。そして、このワークをするためのルールをしっかり、書くべきだろう。
構成的グループエンカウンターは、心理学から開発されてきたため、道徳学者はそういった留意点などを書きたくないのだろうか。いわて子どもの心のサポート授業がネットに公開されており、友だちからのポジティブメッセージを送ってもらうワークの指導案が心のサポートチームのスクールカウンセラーが案を立てている。「ありがとうの皿」と「中高高校用」の2つを掲載している。
だから、「道徳」の授業方法は、心理学の立場からすると、「危険がいっぱい」、「時間のむだ(それは国語でやってよといいたい読み物教材)、「二次被害の教材」、「めあてを達成できない方法論」になっているといわざるえない。ぜひ、教科書に参画している道徳学者の意見を聞きたい。
自分の特徴を知る方法は、友だちから教えてもらう方法ではなく、もっと安全な方法がある。自分のパーソナリティを知る方法が一つで、さまざまな性格テストが考案されている。小学5・6年では、理論的にもわかりやすく、日々経験するストレスにどう対処しているかを調べる方法が適している。それは、自分が日頃「ストレスを感じたとき、どんな行動をやっているか」を自分で評定する方法である。もうすぐ、ある小学校5年生・6年生で道徳の時間に実践することになっている。
[参考資料]
「特別の教科」道徳の小学校学習指導要領解説(文部科学省 H29)
道徳性を培うために行う道徳科における学習
1)道徳的諸価値について理解する
2)自己を見つめる
3)物事を多面的・多角的に考える
4)自己の生き方についての考え方を深める
内容項目の指導の観点
A 主として自分自身に関すること
B 主として人との関わりに関すること
C 主として集団や社会との関わりに関すること
D 主として生命や自然,崇高なものとの関わりに関すること
A 主として自分自身に関すること
自律,自由と責任
小1・2年 よいことと悪いこととの区別をし,よいと思うことを 進んで行うこと。
小5・6年 自由を大切にし,自律的に判断し,責任のある行動を すること。
正直,誠実
小1・2年 うそをついたりごまかしをしたりしないで,素直に伸 び伸びと生活すること。
小5・6年 誠実に,明るい心で生活すること。
節度,節制
小1・2年 健康や安全に気を付け,物や金銭を大切にし,身の回り を整え,わがままをしないで,規則正しい生活をすること。
小5・6年 安全に気を付けることや,生活習慣の大切さについて理解 し,自分の生活を見直し,節度を守り節制に心掛けること。
個性の伸長
小1・2年 自分の特徴に気付くこと。
小5・6年 自分の特徴を知って,短所を改め長所を伸ばすこと。
希望と勇気, 努力と強い意志
小1・2年 自分のやるべき勉強や仕事をしっかりと行うこと。
小5・6年 より高い目標を立て,希望と勇気をもち,困難があっ てもくじけずに努力して物事をやり抜くこと。
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