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2019年9月

2019年9月28日 (土)

特別の教科「道徳」のねらいと教材(1)内容項目(授業のめあて)と読み物教材の乖離

「特別の教科」道徳の小学校学習指導要領解説(文部科学省 H29)から抜粋した
道徳性を培うために行う道徳科における学習
(1) 道徳的諸価値について理解する
(2) 自己を見つめる
(3) 物事を多面的・多角的に考える
(4) 自己の生き方についての考え方を深める
をみれば、道徳の時間にこのような学習をするならば、なんとすばらしいことかと多くの者は思うだろう。
自己をみつめ、物事を多面的・多角的に考え、自分の生き方について考えを深めることを小学校から中学校では毎週1コマ学習をしている。なんとすばらしいことかと。
そして、これらの学習をすすめるために、4つの内容項目の柱―主として自分のこと、人とのかかわりのこと、集団や社会とのかかわりのこと、生命や自然崇高なものとのかかわりのことーがあり、合計22の内容項目が設定されている。これが一コマずつの授業のめあてになる。例えば、個性の伸長:小5・6年「自分の特徴を知って,短所を改め長所を伸ばすこと。」
とある。これに相当する教科書をみてみる。ここでは、学研の小5のページをあけてみる。

78-80p わたしのこと 17日本の「まんがの神様」 考えよう ①まんがの才能がみとめられたとき、治はどんなことを考えたでしょう。 ②あなたの長所はなんですか。その長所をどのようにしてのばしていきたいですか。

81p つなげよう もっとかがやく自分になるためには
(   )さんに聞きました! 
私の長所
理由
一言メッセージ

私の直したいところ

(   )さんからのアドバイス

手塚治さんの物語が3ページにわたり記載されており、治はちいさいころいじめられっ子だったが、家にまんががたくさんあり、いじめっこがあそびにきて、しかも、いじめられないための作戦に、治はまんがをかき、それでクラスの人気者になった。ある日、授業中に治がかいた漫画を同級生が読んでいて、それを先生にみつかった。先生は「大いに、まんがをかきなさい。君はきっと将来まんが家になれるだろう」とほめてくれたという物語です。
この物語自体は大変興味深いですよね。
道徳の手法は、このように、登場人物の心情を推し量って、最後に、自分のことを考えるというストーリーがほとんどです。

 

手塚治さんの物語を読んで、授業のめあてである「自分の特徴を知って,短所を改め長所を伸ばすこと。」が達成されるだろうか?児童は、心のなかで何をつぶやくだろうか?
「ぼくは、いじめられたら脱出する作戦も立てられないな。だってなにもないから」
「すごいなー。ぼくにはこんなすごいこともってないな」
偉人の物語を読んで、自分の短所をあらため長所を伸ばすことにつながるだろうか。

 

そして、81pつなげよう は、ワークシートになっている。自分の長所は自分では気づきにくいので、友だちからメッセージをもらう活動である。これは、構成的グループエンカウンターの手法のひとつだが、手塚治物語を読んで、このワークを45分で行うのは、とても無理がある。しかも、このワークは、細心の注意が必要である。ふざける児童が多いクラスでは、傷つくメッセージを友だちが送るかもしれない。もし、このワークをやり、「自分の特徴を知って,短所を改め長所を伸ばすこと。」を児童が体験できるようにするには、物語教材を前段に置くのではなく、自分の特徴は、自分で気づくこともできれば、友だちから「こんなことすごいね」っていってもらうと、そんな自分もあるんだよ。とワークの目的を記すべきだろう。そして、このワークをするためのルールをしっかり、書くべきだろう。

 構成的グループエンカウンターは、心理学から開発されてきたため、道徳学者はそういった留意点などを書きたくないのだろうか。

 いわて子どもの心のサポート授業がネットに公開されており、友だちからのポジティブメッセージを送ってもらうワークの指導案が心のサポートチームのスクールカウンセラーが案を立てている。「ありがとうの皿」と「中高高校用」の2つを掲載している。

 だから、「道徳」の授業方法は、心理学の立場からすると、「危険がいっぱい」、「時間のむだ(それは国語でやってよといいたい読み物教材)、「二次被害の教材」、「めあてを達成できない方法論」になっているといわざるえない。ぜひ、教科書に参画している道徳学者の意見を聞きたい。

 自分の特徴を知る方法は、友だちから教えてもらう方法ではなく、もっと安全な方法がある。自分のパーソナリティを知る方法が一つで、さまざまな性格テストが考案されている。小学5・6年では、理論的にもわかりやすく、日々経験するストレスにどう対処しているかを調べる方法が適している。それは、自分が日頃「ストレスを感じたとき、どんな行動をやっているか」を自分で評定する方法である。もうすぐ、ある小学校5年生・6年生で道徳の時間に実践することになっている。

[参考資料]
「特別の教科」道徳の小学校学習指導要領解説(文部科学省 H29)
道徳性を培うために行う道徳科における学習
1)道徳的諸価値について理解する
2)自己を見つめる
3)物事を多面的・多角的に考える
4)自己の生き方についての考え方を深める
内容項目の指導の観点
A 主として自分自身に関すること
B 主として人との関わりに関すること
C 主として集団や社会との関わりに関すること
D 主として生命や自然,崇高なものとの関わりに関すること

 

A 主として自分自身に関すること
自律,自由と責任
小1・2年 よいことと悪いこととの区別をし,よいと思うことを 進んで行うこと。
小5・6年 自由を大切にし,自律的に判断し,責任のある行動を すること。

 

正直,誠実
小1・2年 うそをついたりごまかしをしたりしないで,素直に伸 び伸びと生活すること。
小5・6年 誠実に,明るい心で生活すること。

 

節度,節制
小1・2年  健康や安全に気を付け,物や金銭を大切にし,身の回り を整え,わがままをしないで,規則正しい生活をすること。
小5・6年 安全に気を付けることや,生活習慣の大切さについて理解 し,自分の生活を見直し,節度を守り節制に心掛けること。

 

個性の伸長
小1・2年 自分の特徴に気付くこと。
小5・6年 自分の特徴を知って,短所を改め長所を伸ばすこと。

 

希望と勇気, 努力と強い意志
小1・2年 自分のやるべき勉強や仕事をしっかりと行うこと。
小5・6年 より高い目標を立て,希望と勇気をもち,困難があっ てもくじけずに努力して物事をやり抜くこと。

 

 

2019年9月27日 (金)

結愛ちゃん事件の悲しみと怒りをPreventionの政策に反映しよう

優里被告の弁護人は雄大被告からの心理的DVの影響を精神科医の証言から刑期5年を主張し、求刑11年に対し判決は8年となった。

twitterでは、DVよりずっと酷いことを結愛ちゃんはされてきた。8年は軽すぎる、といったつぶやきが多く発信されています。結愛ちゃんが必死で訴え綴った文や受けてきた暴力支配強制が明らかになっていき、そのようなつぶやきが発信されるのはもっともだと思います。

一方、第2,第3の結愛ちゃんを出さないという決意は日本社会の責任です。政府がすすめている政策は、虐待の早期発見と対応、児童相談所職員の増員とスキルアップなどで、これらは必須政策です。しかし、この発見対応モデルだけでは、第2、第3の結愛ちゃんを防ぐことはむつかしいと考えています。

いじめにしても、虐待にしてもpreventionの政策がとぼしいのです。いじめのpreventionを道徳のみに委ねたのも間違いだと思います。

学習指導要領を改訂して、中高では「DVサイクル」「支配の車輪構造」「暴力トラウマの意味と対応」を学べるように、道徳の35コマのうち、5コマを「心の健康教育」に使えるようにとの提案のtwitterは、インプレッションは6000ちかく、「いいね」は100を超えました。私のつぶやきにしては多くの反応をえました。

 

わが国の虐待やDV対策はInterventionにウエイトがおかれています。もちろん、これは不可欠です。しかし、Preventionの充実を図る必要があります。家庭での体罰禁止の法律をつくってもそれだけでは効果は乏しいでしょう。しかし、法制化は必要です。道徳でいじめはダメだとメッセージを送るのも必要でしょう。でもそれだけではダメでしょう。なぜ暴力やいじめがダメなのか、心身にどのような影響を及ぼしどうすれば回復するのかの知識を学び、いじめや暴力の衝動をどうコントロールするかを体験的に学び、いじめや暴力の替わりの表現の方法を体験的に学ばなければなりません。

「暴力をもちいない子育て運動」といった取り組みを、地域で行う必要を感じています。保護者へのしつけの意識調査⇒暴力を使わない子育て運動⇒しつけ意識調査 といった試みが必要のように思います。

セーブザチルドレンがスウェーデン、ミャンマーなど世界各地で展開してきています。ミャンマーの元紛争地での取り組みは私もスーパーバイザーで参加しました。暴力トラウマの及ぼす影響についての知識普及、かかわり方のロールプレイ、ソーシャルワーカーの育成、村のローカルゲートキーパーの育成などです。そのプログラムの効果を検証するために、子どもと保護者に10項目ほどの質問を設定してpre,inter,postのデータを統計解析するお手伝いをしました。エビデンスがないとプロジェクトは継続できないからです。

道徳の教科化によるエビデンスベースドエデュケーションは展開されてるのでしょうか。

地域をあげての暴力を使わない子育て運動と学校教育での暴力防止を学ぶ心の健康教育を連動させて、展開する必要があります。

心理学や医学の学会レベルで、これらの取り組みのエビデンスをだしていく必要性を感じています。
公認心理師の職能団体が割れている時ではないと思います。

 ps.20190928加筆修正しました。

2019年9月17日 (火)

結愛ちゃん事件、裁判での精神科医の証言と懲役8年ーもう一つの改革を

結愛ちゃん事件、裁判での雄大によるDVについて、トラウマ臨床の日本の第一人者の精神科医が証言した。
「典型的で、最悪のケース」精神科医が語ったDVの車輪構造と児童虐待

HUFFPOST 2019年9月12日
懲役8年の有罪判決
HUFFPOST 2019年9月17日

判決は心理的DVをどう捉えるかが争点の一つとなった。求刑より3年短い判決だが、精神科医の渾身の証言の一部が判決文にとりいれられている。

5才の結愛ちゃんは、虐待の体験を覚えたての文字で書き綴った。虐待のその凄惨な行為は、国民の怒りと悲しみを引き起こし、親による体罰禁止の法改正へとつながった。

この結愛ちゃんの死の悲しみから、私たちは、もう一つの改革をしなければならない。それは、精神科医が証言のなかで示した「DVの車輪構造」と「DVのサイクル」の図をもちいた「心の健康授業;メンタルヘルス教育」を中学生、高校生が学べるように学習指導要領を変えることだ。ほんの一部の学校では、デートDV防止の授業が行われている。しかし、全ての学校で取り組まれていない。大津のいじめを苦にした自死事件を受けて、いじめ防止対策推進法が制定され、いじめ・自殺予防の柱に、道徳を教科化した。しかし、この5年、子どもの自殺は減少するどころか、増加している。政策のあやまりを修正する時期にきている。道徳では、ストレスやトラウマを学ぶことはできない。暴力による心の傷を学ぶこともできない。どうすれば、心の傷を回復できるかも教えることができない。精神科医の証言に、検察官は専門用語を使わないようにといったらしい。

この法廷での証言のなかで、

(弁護士)次の話です。結愛さんの腹部を蹴る暴行があったんですが、これを優里さんが目撃した。その時に、「動けなかった」と言っているんですけれども、これはどういうような心理状態だったんでしょうか。

(精神科医)これはもう「なんで助けなかったのか」というような声を聞いたんですけれども、(そうした意見が)Twitterなどでも出ている。
これは「フリーズ」と言って固まってしまうという症状なんですね。「フリーズ」とは凍結という意味です。
先ほど「冷凍保存」と言いましたけれども、典型的な、ショック後の症状です。

検察官が、証言台のほうを向き「あまり専門用語を使わないようにお願いします」と促した。弁護人は「簡単に、分かりやすい言葉で」と話した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
検察官は、どの用語が専門的だと思ったのだろうか。「フリーズ」だろうか、「冷凍保存」だろうか、私は、この検察官の注文こそが、わが国のトラウマ・ストレスの理解の貧困、メンタルヘルス教育の貧困を象徴していると思った。検察官は、司法試験に合格している対人援助職の専門職である。いかに、学校教育で、ストレスやトラウマについて学ぶ機会がなかったかをこのエピソードは物語っている。
それは、ストレスを学ぶ時間が、小中学校9年間で、6コマしかない日本の現状を反映しているのだろう。
虐待、いじめ、DVにまさに苦しんでいる人へのサポート体制はもちろんより整備する必要がある。
しかし、もう一つ改革をしなければならないことは、国民の「心の健康」に関する教育の充実であろう。
災害被災地では、子どもたちに、トラウマ、凍りついた記憶、逃げるか戦うか固まる(フリーズ)か、といったことを「心のサポート授業」で伝えている。しかし、この授業をする正規のコマは9年間で6コマしかない。道徳の年間35コマのうち、5コマでもいい、心の健康授業ができるようにしなければ、いつまでたっても、この検察官のように、ストレスやトラウマの知識の無理解は解消しない。
もし、暴力が心身にどのようなネガティブな影響を与えるかを、小さいときから学んでおけば、日本の自殺、いじめ、暴力のあらわれ方も変わってくるのではと思うのだが、どうだろうか。

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