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2019年5月

2019年5月30日 (木)

川崎無差別殺傷事件後の心のケア(3)被害にあわれた方それぞれの心の時計

池田小事件時に大阪府知事をされていた太田房江さんがご自身のブログ(&アゴラ)に専門家によるチーム支援の大切さと長期支援の大切さを語っています。一部引用します。

「しかし、それでも、子どもたちの心の傷、PTSDを癒すのは簡単なことではありません。それを思い知らされたのは、当時の被害者のみなさんの声。亡くなった児童の同級生たちが、メディアに少しずつ思いを語られるようになったのを報道でした。」

 実は、2001年6月8日の付属池田小学校事件の時代は、心のケアのあり方が世界的にも変わる年だったのです。2001年9月11日同時多発テロがアメリカで起きました。それまで、なるべくはやく被災体験・被害体験を語り表現することがPTSDを予防できると「心理的ディブリーフィング」という手法が世界を席巻していました。しかし、そのディブリーフィング発信のアメリカで起こった同時多発テロ後の心のケアで、そのディブリーフィングでは参加者の満足度は高くても、トラウマ症状が減衰しないことがわかったのです。しかも、被災体験・被害体験を語らせることで、「もう二度と語りたくない」と回避を強め、それがストレス障害のリスクを高めることもわかっていったのです。その後、アメリカでは、新しい心のケアのガイドライン(心理的応急法:サイコロジカルファーストエイド)が専門家によりつくられ、急性期には、被災・被害体験の表現ではなく、安全感の確保が大切だということが専門家の間でコンセンサスをえたわけです。
 しかし、「被害体験を語ること」、このことは、心のケアの最も重要な体験のひとつでもあります。
ところが、被害体験によって、この語りの主の心の時計がそれぞれ異なるのです。

 最愛の人の命を奪われた方の心の時計は、その事件から、「(心の時計の針は)とまっています」という方が多いです。心はマヒし現実のことと受けとめられない、心の時計はとまったまま物理的時間が経過していきます。
 一方、メディアは「被害にあわれた方の今を伝えたい」それがマスメディアの使命だと思い込み、ないしは紙面を埋めるために取材をする。でも、それはあまりにも被害にあわれた方にとって、むごいこと、いまはそっとしてあげるのが私たちにできること、とテレビや新聞やスマホを前にして多くの人が思っていることです。ですから、今は、メディアは、あの犯人の育ちのなかで社会ができることはなかったのか、どうすれば同じような犯罪者をださない社会をつくことができるのか。そして、傷ついた人が日常生活を送ることができるようになるためにはどのような体験が必要なのかを伝える機会にしてほしいです。ストレス障害のリスクが、「強い回避」と「自責感」であることを多くの人は知らないからです。そのことをマスメディアは伝えてほしいのです。このことはまた改めて書きたいと思います。

 時が経ち、メディアスクラムがすぎさったとき、やっと声をあげる心境になるご遺族の方が多くおられます。メディアの方は、心の時計の針の刻み方が異なることを知って、息長く寄り添ってほしいと思います。心あるメディアの方は、私たち心のケアの専門家以上にしっかりお話をお聴きできる方がおられます。

 体の傷を負って今治療をしている子どもさん、そのご家族。体の傷は負わなかったけど、その場面を目撃した子どもさん・教職員さん。そのニュースを聞いた学校の子どもたち、教職員、保護者さん。それぞれに反応のあらわれ方の時間経過が異なっていきます。
 
心をマヒさせてがんばりつづけていると、周りは「元気にがんばれていてよかった」と思ってしまいます。しかし、心のなかでは、「自分があのとき・・・すれば・・・」と自分を責めなくてもいいのに、自分を責め続けているかもしれません。
 
 心の時計の針のきざむペースが異なるのですから、それぞれの体験に応じた表現の機会を折々に設けてあげる必要があります。そして、被害体験の語りをいきなり求めるのではなく、まずは、「安心感」、安全な場所(これを大人がしっかり作る必要があります)では安心していいこと、そして人と人のよい「絆」・・・そして、自分に起こっている心身の変化に気づきそれを表現する機会を作ること(ストレスチェックにより自分のストレスとトラウマを知り望ましい対処を学ぶ授業や機会)。
 (東日本大震災後の心のケアとして、岩手県教育委員会はトラウマストレスチェックリスト(心とからだの健康観察)を8年間継続して実施してきました。例えば今中学2年生が震災のとき幼稚園さん、小学校の6年間と中1の7年間のトラウマストレスチェックの経過の一覧を参考に、再体験反応がどのように推移してきたのか、そして今どんな体験が必要なのか、その記録を参考にしながら支援を続けています。)

そして、安全なのに危険とおもってしまう刺激や場所に少しずつチャレンジし、自分の体験を自分のペースで信頼できる人に表現、ないしは自分で書き綴ること。それまでの道のりを身近な人が寄り添い、それを専門家がサポートするシステムを今つくる必要があるのだと思います。

災害後の子どもの心のケア-平成30年7月豪雨(8)真備の学校でのアンケート結果


2019年5月29日3時0分 岡山)「心配事ずっと考える」3割強 倉敷市教委調査 朝日新聞 の記事が発信されています。有料記事なので一部無料で読める箇所だけ抜粋します。

質問は、眠れない、ごはんがほしくない、イライラする、心配なことをずっと考えてしまう、学校生活が楽しい-の5項目。それぞれ「ある」「ときどきある」「あまりない」「ない」などの4つから選択させた。
対象は、被災した真備地区の市立の6小学校と2中学校と1高校1677~1899人とのこと。
①18年10月、②18年12月、③19年2月の結果がグラフで示されています。「眠れない」は①時点では、32%が「ある・ときどきある」、③時点で21%。「ごはんがほしくない」が①時点で18%、③時点で15%なのに対し、「心配なことをずっと考えてしまう」は①時点が33%、③時点が33%とグラフから読み取れます。

ここから私のコメント。
まず、倉敷市教委が子どものストレス調査を被災地区の児童生徒を対象に継続実施していることに敬意を表したいと思います。これまでの災害では、各学校バラバラのストレス・アンケートが使われて、実態が把握できないことも多くありました。また、「子どもたちは元気だから、そのようなストレス・アンケートをする必要はありません」と教育委員会や学校の管理職が拒んでしまった例もあり、長期の支援体制が作れずに、くやしい思いをしたこともありました。その点、倉敷市教委が被災地域の小中校の学校で統一的に実施してこられたことに、心より敬意を表したいと思います。
この5項目中4項目は、おそらく、東日本大震災後に心のサポート授業のなかで実施された私たちが作成した健康アンケートをベースにしていると思います。そして、1項目「心配なことをずっと考えてしまう」という項目は、熊本地震後、強い余震が続く中、余震への備えと対処を考えるきっかけとして、熊本県教育センターの学校心理士スーパーバイザー(当時)といっしょに考え作成した「「また大変なことが起こるのでは」とずっと考えてしまう」という項目を参考にしているのだと思います。小学生には、「こわくて、おちつかない」という項目を作りました。この2項目は、DSM-5 Post Traumatic Stress Disorder(外傷後ストレス障害)の反応項目にはないものです。私は、「予期恐怖」と名づけています。「予期不安」はまた何か起きたらどうしようという漠然としたストレッサーを指しますが、災害という特定のストレッサーに対する恐怖なので、そう名付けています。
この健康アンケートの項目は、ストレスマネジメントのきっかけとするために設けました。ですから、「眠れない」には、「眠れないときどんな工夫をしてますか?」と発問して、望ましい睡眠への対処を分かち合い、眠りのためのリラクセーション法(漸進性弛緩法)を児童生徒に体験してもらう。「いらいらする」には、同じように、イライラをどうすればコントロールできるか考えてもらい、「落ち着くためのリラクセーション法(呼吸法や肩の動作法)」を体験してもらうというようにやってきました。
「「また大変なことが起こるのでは」とずっと考えてしまう」には、<どんなことが心配ですか?>と設問し、児童生徒から「またあんな大雨になったら」という発言を引き出し、備える防災の知恵を集めるきっかけの設問なんです。
実際どのように、このストレス・アンケートを活用しているのか、知りたいと思いました。
そして、このストレス・アンケートの項目に特に、「豪雨」「災害」という用語をいれていないのは、子どもたちにとって、脅威となるストレス(トラウマ)は、災害だけではなく、いじめ・暴力などがあり、それも含めて、心のケアを展開する必要があると考えているからです。

2019年5月29日 (水)

川崎無差別殺傷事件後の心のケア(2)身近な人の役割と専門家の役割


(1)では、心のケアの専門家チームを作ることを奨めるメッセージを書き込みました。しかし、「専門家チームが子どもたちにカウンセリングをすぐにしましょう」というのではありません。近年の事件・災害後の心のケアではそのアプローチは推奨されていません。むしろ、安心できる身近な人こそ、さまざまな心身の反応(トラウマ反応や悲嘆反応)を子ども自身が収めていく力をサポートできると考えられています。
メディアの心のケアのテロップ(Ameba News)をみると、「トラウマ(過覚醒、フラッシュバック、回避)が起こる可能性も」とありました。あれほどの現場に立ち会っていいたら、トラウマ反応が起こるのが自然です。そのトラウマ反応が持続して、日常生活を阻害するストレス障害に移行するのか、トラウマ反応を収めていくのか、大きく2つに分かれていくのです。人にはトラウマ反応を収めていく自己回復力があります。その自己回復力を促進するセルフケア(自分が自分をケアする)をサポートするのか心のケアです。それには、いつもそばにいる身近な人に大きな力があるのです。
しかし、身近な保護者さんも、このような事件ははじめてでしょうから、子どもにどんな反応が起き、反応が起きたときどう対応したらいいかを知っておく必要があります。
この数日でチームを立ち上げて、事件から1週間後くらいに、保護者会で心のケア研修会を参加できる人でいいので開催するといいと思います。
 もちろん、教師たちの心のケアも必要ですが、まずは、さまざまな反応への適切な対応はなにかを知るところからはじめるといいでしょう。
 そして、自然回復がどうしてもむつかしいときに、専門家チームによる個別支援を展開していくというのが時期に応じた心のケアだと考えています。

※twitterなどでは「川崎殺傷事件」といわれていますが、私は「川崎無差別殺傷事件」の方が適切な表記ではないかと考えています。

川崎無差別殺傷事件後の心のケア(1)安全感の回復支援と長期支援体制の確立を

この事件での被害者・被害者家族・学校関係者への心のケアとして、今できることを書いてみます。

1.被害にあわれた方々への支援
1)大切な家族の命を突然理不尽に奪われたご家族の支援
 亡くなられた外務省職員の方の奥様のメッセージが弁護士さんを通じて発信されたようです。
「突然のこと過ぎて、深い悲しみの中にあります。今はなにも考えられない状態です。そのため、とても取材等には応じられません。どうか取材等は、お控え下さるようお願いいたします」(日テレニュース24、2019年5月28日23:29)
 報道関係のみなさま、なにより、ご家族のご意向を大切にしてください。

2)負傷した子どもたち・目撃した子どもたちへの心のケア
 このような出来事を経験すると恐怖を心の中に閉じこめて、“こわいよ”という感情の表現すらできなくなることがあります。まず必要な体験は安全感です。地域での安全感の回復には、犯人が死亡したとはいえ、同じような人がいるかもしれないという恐怖心をやわらげるためにも、警察の見守り体制を強化してほしいです。次に、学校の安全感、家庭での安全感の回復支援です。“こわかったよ”、“こわいよ”と言葉で表現しずらいために、行動でその恐怖を表現することがあります。「親から離れられない」「トイレに一人で行けない」今までできていた行動ができなくなる、ということがあります。それは、恐怖を行動で表現していると受け取ってあげてください。ですから、しばらくは、<いいよ、いっしょにいようね、トイレについていってあげるよ、そんなふうにいっしょにいたいってよくいってくれたね>と行動から気持ちを推測して声をかけてあげるといいです。安全感、安心感が戻ってくると、フラッシュバックや悪夢などの再体験反応があらわれやすくなります。その対応はまた次の回に書きます。
今まで述べてきた回復支援は、トラウマ体験への支援です。
もう一つ、大切な支援があります。それは、大切なお友だちやお友だちのお父様を亡くしてしまったという喪失への反応への支援です。

2.長期支援体制をいま構築してください
 医師・臨床心理士(公認心理師)・弁護士・警察官などの専門職のチームを立ち上げてください。各都道府県には犯罪被害者支援センターがあります。神奈川にも神奈川被害者支援センターがあります。そこを核にチームを編成してもいいでしょうし、トラウマに卓越した知見をもっている医師・臨床心理士が近隣の大学にはおられます。チームを編成するにあたり、支援は長期にわたるためボランティアではつとまりません。長期支援には、公的な補助が不可欠です。公立の学校にはスクールカウンセラーが配置されていますが、私立の学校にも今スクールカウンセラーの配置が進んでいると思います。よきチームをつくり、どの時期に、どのような支援プログラムを発信するのか、学校関係者と連携しながら進めてほしいと思います。

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