熊本地震と心のケア(14)救援者の心構えー重村淳先生からのメッセージ
救護活動中に気を付けておくこと
救護活動後に気を付けておくこと
被災地で救護活動を行った同僚と接する医療従事者の方へ
« 2016年3月 | トップページ | 2016年5月 »
被災した子どもたちが安心感をはぐくむことが、最優先の必要な体験です。
1、余震があったとき、こうやればいいよという防災の安心感
学校が再開されたら、<専門家(建築家)の危険度診断で、校舎は震度7以上でも壊れないということがわかっていますよ。>とはっきり伝えてほしいです。そして、どんな避難行動が適切かを教えます。机の下に身を隠し机の脚をしっかりもつのはどうしてなのか、耐震性が弱い建物だと、落ち着いて、外にでる方がいい、ということなど、これは防災の専門家の知恵も集めてメッセージを送りましょう。それでも、阪神淡路大震災で震度5強を体験した私は、自分のからだが思うように動かせなかった経験があります。そのような知識をもつことも対処になります。
2、心とからだの変化についての安心感
大変なことを体験すると心とからだにいろいろな反応が起きます。でもそれは大変なことを乗り越えようとがんばっているのです。とても自然なだれにでも起こる反応なんです。それぞれの反応にはこうすればいいよという方法があります。ひとつの例ですが、みんな余震に備えてからだをカチコチにしているかもしれません。それはとっても自然なことです。それにはからだをほぐしリラックスいろんな方法があるよ。先生とやってみよう! といったことです。
3、そばにいるよという安心感
困ったことがあったらいっしょに解決するよう考えようね。いつも先生がそばにいるよ。つらかったらがまんしすぎないで、先生にいってくれたらいいんだよ。先生にだってわからないこともあるけど、そのときは、いろんな専門家にもどうしたらいいか聞いてみるからね。
3つの安心感は、高橋哲さんの提案です。私なりに、自分のことばで、3つの安心感を整理してみました。私たちは、身近にいつもいる教師が、子どもたちの心のケアのキーパーソンだと思っています。私たちは、教師のみなさんを応援したいです。被災地に行けない私にとっての応援の仕方です。いずれ熊本大分に行きたいです。
岩手県・山田町の学校の駐車場にて。
4月23日・24日、甲南大学で、兵庫県臨床心理士会主催・ひょうごHEART研修会が開催されました。兵庫県臨床心理士会は、災害・事件後の心のケア支援の研修を定期的に実施してきました。すでに1ヶ月前に予定されていたことだったのですが、熊本から1名、宮崎から2名の臨床心理士も参加してくださいました。熊本からの臨床心理士は、熊本の状況をお話くださりました。熊本県臨床心理士会のHp.をみますと、支援者にとって有用なサイトがずらっと紹介されていました。おそらくHp.を更新しておられる方も被災されておられるのだろうと思いますが、これほどの情報を集めて、掲載するのは相当の労力だったろうと思われます。被災されている状況のなかで、情報発信されていることに心より敬意を表します。また、私のこのブログも紹介いただき、感謝です。
ひょうごHEART研修会では、私は時期に応じた支援のプログラムについて、東日本大震災での実践をもとに、みなさんにお話しました。
災害の規模にもよるでしょうが、時期に応じた心理支援が大切なことをお話しました。
①災害から2-3ヶ月後くらいまでは、安全・安心を体験できるあらゆる活動が求められること、東日本では、とくに、岩手では、この時期、睡眠、食欲、体調、イライラといった日常の健康観察のチェックリスト5項目を活用し、リラックス法、眠りのため、イライラのための対処を、メインにした授業を配置型スクールカウンセラーおよび緊急派遣スクールカウンセラーが担任と協働で実施し、好評でした。
②災害から3-4ヶ月以降、トラウマのアンケート(「そのときの場面が、いきなり頭にうかんでくる。」といった質問により構成されたスクリーニングアンケート)は、仮設住宅に移り住むといった、ある程度、生活が落ち着いてから、心理教育とストレスマネジメントとセットで行うこと。岩手の学校では、年に1回9月に、19版、31版(心理教育のための心とからだの健康観察)を実施し、8年間継続実施を2011年4月はじめにプレスリリース。2015年度は、小学校低学年、内陸に移った生徒のストレスが高いことを発表しています。
いわて子どもの心のサポート (岩手県総合教育センター)のホームページに、急性期(2011年5月から6月)に実施した授業案、健康チェックなども掲載されています。
この時期、子どもの心のケアが重要なことをNHK時論公論 子どもの心のケア でとりあげられたことは大変重要だと思います。
しかし、この時論公論で、語られていないことをお伝えしておきたいと思います。
1,トラウマ反応とPTSDの疑いとPTSDを区別しておいた方がいいです。
①トラウマ反応はだれもが体験する反応:トラウマ反応は過覚醒(興奮して眠れない・イライラする・物音揺れに敏感)、再体験(悪夢、フラッシュバック、災害遊びなど)、回避(出来事に関連する安全な刺激・場所・人を避ける)、マヒ(よく思い出せない、感情が感じられない)、マイナス思考(自責感、孤立無援感、無力感など)です。それらは、死ぬ思いを体験した人ならだれにでも起こる自然な反応です。
②ストレス障害との理解を:PTSDは、すでに安全な環境になっているにもかかわらず、トラウマ反応が強く持続し、日常生活に支障を来している状態です。Post Traumatic Stress Disorder の頭文字でPTSDです。この名称からもわかるように”Post”であることが条件です。しかし、今回の地震は強い地震が引き続いている点で、Postではないのです。
また、自然災害によりPTSDとしてあらわれることは、とても少ないです。性犯罪などの出来事はPTSDとしてあらわれる率がとても高いのですが、自然災害はとても低いです。しかし、心身症、うつ、依存症(アルコール、ギャンブル、子どもは電子ゲーム)、暴力などにあらわれることがあります。ですから、PTSDよりもストレス障害としてとらえた方がいいでしょう。
③PTSDの疑いについて:ここで引用されている岩手県の11.3%は保護者からみた子どものトラウマ反応のチェックリストからはじきだされた値です。ですから、「PTSDの疑い」というのは、誤りではないですが、むしろトラウマ反応が減衰せずに、ハイリスクな子どもたちといった方がいいと思います。PTSDと医療機関で診断されたケースは極めて少ないと報告されています。
2,学校は組織的な取り組みが行える:学校は組織的な取り組みを行えます。岩手県教育委員会は、ストレスマネジメントを中心としたこころのサポート授業、心とからだの健康観察(小学生には19項目版、中高生には31項目版)を毎年実施してきました。今年3月に岩手県教育委員会が公表した結果では、1)被災して内陸に転居した生徒のトラウマ反応が高い、2)震災時、幼児だった子どもが小学生低学年でトラウマ反応が高い というのが特徴として報告されています。(私は岩手県教育委員会の子どものこころのサポートチームのスーパーバイオザーをこの5年間つとめてきました。)ですから、このような組織的な対応を、企業、自治体で行う必要があるのです。中高年の男性は自分の感情を表現しない傾向があり、心身症や依存症への展開が危惧されます。
2,ストレス障害のリスク因子はなに?
では、回復する人とストレス障害になる人の違いはなんでしょうか?これまでの研究から、「自責感と強い回避」だと考えています。これは、いずれもトラウマ反応なわけで、どうして?と思われるかもしれません。
それは、トラウマ反応が回復の過程で起こる自然な反応だからです。
すごくショックな体験をして、しばらく時間が経つと、「よく思い出せない」という反応が起こります。それは「マヒ」です。でも、記憶されてないかというと脳には記憶されています。そして、安全が確保されていくにつれ、悪夢やフラッシュバックがあらわれ、災害遊びをするようになります。これは、凍り付いた記憶の箱が安全になり溶け始めているのです。ですから、「あ、安心できるようになったんだ」という受けとめが大切です。でも、このフラッシュバックがつらいんですね。それで、フラッシュバックが起きるようなきっかけ刺激(トリガー)を意識的・無意識的に避けるようになります。
学校教育では、災害を連想させる教材が学習課題にあったとき、教師はそれに取り組むことを躊躇するようになります。そのとき、すでに安全になっている刺激には、少しずつふれて、チャレンジしていく方が、回復に寄与するのです。でも、災害はそれぞれ個人差があり、心身反応も個人差があります。一人一人の受けとめ方を大切にしながら、一人一人のペースに応じたチャレンジが必要です。この回避をし続けることが、再体験反応の減衰をさまたげるのです。
3,いま県市町教育委員会はなにをすればいい?
いまの段階では、これらの知識を少しずつ知って、半年後、1年後、数年後に、適切な対応を教師や保護者がとれる体制を整えることが、今の課題です。すなわち、県市町教育委員会は、今の時期、長期的なサポートシステムを整備することです。半年後に、県下で、心とからだの健康観察(調査はだめ、子どもが自分のストレスを知り、有効な対処を考え体験する授業として実施すること)をやろうとすると、この時期に準備しておかないとできないのです。
4,今の子どもたちにはどうかかわったらいい?
いまの時期は、余震からどうやって身を守るか、どうすれば睡眠をとることができるようになるか、どうすればイライラをコントロールできるようになるか。思いっきりからだを動かし遊ぶ、再開を分かち合うことでしょう。
5,東日本は津波、熊本は地震、この災害の違いにより、防災教育の力点が異なっていきます。また、トラウマと喪失はことなるので、これはまたの機会に記載します。
最近のコメント