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2016年4月20日 (水)

熊本地震と心のケア(7)NHK時論公論 子どもの心のケア

この時期、子どもの心のケアが重要なことをNHK時論公論 子どもの心のケア でとりあげられたことは大変重要だと思います。

しかし、この時論公論で、語られていないことをお伝えしておきたいと思います。

 

1,トラウマ反応とPTSDの疑いとPTSDを区別しておいた方がいいです。

①トラウマ反応はだれもが体験する反応:トラウマ反応は過覚醒(興奮して眠れない・イライラする・物音揺れに敏感)、再体験(悪夢、フラッシュバック、災害遊びなど)、回避(出来事に関連する安全な刺激・場所・人を避ける)、マヒ(よく思い出せない、感情が感じられない)、マイナス思考(自責感、孤立無援感、無力感など)です。それらは、死ぬ思いを体験した人ならだれにでも起こる自然な反応です。

 

②ストレス障害との理解を:PTSDは、すでに安全な環境になっているにもかかわらず、トラウマ反応が強く持続し、日常生活に支障を来している状態です。Post Traumatic Stress Disorder の頭文字でPTSDです。この名称からもわかるように”Post”であることが条件です。しかし、今回の地震は強い地震が引き続いている点で、Postではないのです。

また、自然災害によりPTSDとしてあらわれることは、とても少ないです。性犯罪などの出来事はPTSDとしてあらわれる率がとても高いのですが、自然災害はとても低いです。しかし、心身症、うつ、依存症(アルコール、ギャンブル、子どもは電子ゲーム)、暴力などにあらわれることがあります。ですから、PTSDよりもストレス障害としてとらえた方がいいでしょう。

 

PTSDの疑いについて:ここで引用されている岩手県の11.3%は保護者からみた子どものトラウマ反応のチェックリストからはじきだされた値です。ですから、「PTSDの疑い」というのは、誤りではないですが、むしろトラウマ反応が減衰せずに、ハイリスクな子どもたちといった方がいいと思います。PTSDと医療機関で診断されたケースは極めて少ないと報告されています。

 

2,学校は組織的な取り組みが行える:学校は組織的な取り組みを行えます。岩手県教育委員会は、ストレスマネジメントを中心としたこころのサポート授業、心とからだの健康観察(小学生には19項目版、中高生には31項目版)を毎年実施してきました。今年3月に岩手県教育委員会が公表した結果では、1)被災して内陸に転居した生徒のトラウマ反応が高い、2)震災時、幼児だった子どもが小学生低学年でトラウマ反応が高い というのが特徴として報告されています。(私は岩手県教育委員会の子どものこころのサポートチームのスーパーバイオザーをこの5年間つとめてきました。)ですから、このような組織的な対応を、企業、自治体で行う必要があるのです。中高年の男性は自分の感情を表現しない傾向があり、心身症や依存症への展開が危惧されます。

 

2,ストレス障害のリスク因子はなに?

 では、回復する人とストレス障害になる人の違いはなんでしょうか?これまでの研究から、「自責感と強い回避」だと考えています。これは、いずれもトラウマ反応なわけで、どうして?と思われるかもしれません。

 それは、トラウマ反応が回復の過程で起こる自然な反応だからです。

 すごくショックな体験をして、しばらく時間が経つと、「よく思い出せない」という反応が起こります。それは「マヒ」です。でも、記憶されてないかというと脳には記憶されています。そして、安全が確保されていくにつれ、悪夢やフラッシュバックがあらわれ、災害遊びをするようになります。これは、凍り付いた記憶の箱が安全になり溶け始めているのです。ですから、「あ、安心できるようになったんだ」という受けとめが大切です。でも、このフラッシュバックがつらいんですね。それで、フラッシュバックが起きるようなきっかけ刺激(トリガー)を意識的・無意識的に避けるようになります。

学校教育では、災害を連想させる教材が学習課題にあったとき、教師はそれに取り組むことを躊躇するようになります。そのとき、すでに安全になっている刺激には、少しずつふれて、チャレンジしていく方が、回復に寄与するのです。でも、災害はそれぞれ個人差があり、心身反応も個人差があります。一人一人の受けとめ方を大切にしながら、一人一人のペースに応じたチャレンジが必要です。この回避をし続けることが、再体験反応の減衰をさまたげるのです。

 

3,いま県市町教育委員会はなにをすればいい?

 いまの段階では、これらの知識を少しずつ知って、半年後、1年後、数年後に、適切な対応を教師や保護者がとれる体制を整えることが、今の課題です。すなわち、県市町教育委員会は、今の時期、長期的なサポートシステムを整備することです。半年後に、県下で、心とからだの健康観察(調査はだめ、子どもが自分のストレスを知り、有効な対処を考え体験する授業として実施すること)をやろうとすると、この時期に準備しておかないとできないのです。

 

4,今の子どもたちにはどうかかわったらいい?

いまの時期は、余震からどうやって身を守るか、どうすれば睡眠をとることができるようになるか、どうすればイライラをコントロールできるようになるか。思いっきりからだを動かし遊ぶ、再開を分かち合うことでしょう。

 

5,東日本は津波、熊本は地震、この災害の違いにより、防災教育の力点が異なっていきます。また、トラウマと喪失はことなるので、これはまたの機会に記載します。

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