災害・紛争後の子どもの心のケア(8)被災して転居した児童生徒への心のケアの充実を
岩手県教育委員会は、2016年3月23日に、「心とからだの健康観察」の2015年度の結果を公表しました。岩手日報は、かなり紙面をさいて、詳細に掲載してくれました。インターネットでは、下記の2つの記事を読むことができます。
1)内陸避難の子、継続ケアを 「要サポート」過去最多 2016.3.24 岩手日報
2)被災児童生徒の心 オール岩手で支えたい 2016.3.27 岩手日報・論説
被災して内陸に転居した児童生徒が高いストレスを示しています。とくに、今年度中学2年生、2011年当時、小学校4年生の児童のうち1/4以上が高いストレスを示しているという結果です。
この結果は、岩手での結果ですが、被災県から全国に転校した児童生徒のことを考えてほしいと思います。
2)岩手日報・論説では、「原発事故の影響が深刻な福島県をはじめ、全国各地に長期避難を強いられている子どもたちの孤独な心、深い喪失感にも思いをはせたい。」 と書かれています。
阪神淡路大震災でも、転校した児童生徒のメンタルヘルスを危惧するデータは、実は報告されていたのです。震災で、担任をしていた生徒を亡くし、9年後に、兵庫教育大学大学院で、修士論文を書いた古川香世さんは、9年後に、そのクラスのほとんどの生徒に再び出会い、IES-rなどのトラウマストレスチェックとインタビューをしたんですね。人数は少なかったのですが、転校した生徒の方がストレス反応は高かったのです。
転校生の心のケアは、とてもむつかしいです。担任やスクールカウンセラーが、「転校生だから、個別に相談にのりますよ」と声をかけても、いやがられるだけだと思います。「転校生だからといって、特別扱いしてほしくない」と思っている生徒が多いと思います。だからといって、不登校ぎみになってかかわる、というのでは、解決に時間がかかってしまいます。私の考えは、クラスワイドで、ストレスマネジメントの授業をして、その中で、自分のストレスをみつめるストレスチェックをやって、個別にお話を聞いた方がいい子どもに声をかける、それは、転校生だからではなく、「眠れない」「勉強に集中できない」「思い出してつらい」と申告してくれているから、声をかけて個別に会うのです。ですから、ストレスマネジメント授業は、担任とスクールカウンセラーが共同でやるのがいいと思います。なにか、特別な子どもがカウンセリングを受けるのではなく、だれでもが、解決したいことがうまくいかないとか、もっと自分の能力を発揮したいとか、そういうときは、カウンセリングを活用するといいよ、というメッセージをストレスマネジメント授業では送れるわけです。
ですから、
「被災児童生徒の心 オール日本で支えたい」
もっというなら
「児童生徒の心 オール日本で支えたい」
それは、いじめ、親からの暴力で苦しんでいる子どもがいて、その子どもを、子ども同士で、教師が子どもを、スクールカウンセラーが子どもを、地域の人が子どもを、オール日本で支える仕組みが必要なのです。そして、もっとも大事なことは、「つらいことがあったから<自殺>を選ぶ」という道ではなく、「つらいことは必ず解決できる」という道筋を、はっきりと子どもに伝え、子ども自身が、つらいことを乗り越えていくセルフケア・自己回復力・レジリエンスを高めることをサポートする仕組みを作ることです。
1)岩手日報 2016.3.24
https://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20160324_1
内陸避難の子、継続ケアを 「要サポート」過去最多
県教委は23日、東日本大震災後の児童生徒のストレス状況を把握する調査「心とからだの健康観察」の2015年度の結果を公表した。教育相談が必要な「要サポート」の子どもの割合は全体的に減少傾向だが、被災後に内陸で暮らす中学生のうち「要サポート」は16・6%で過去最多。11年度に未就学だった児童も割合が高い。専門家は沿岸のケアの継続に加え、被災した子が少なく学校全体での取り組みが難しい内陸での対策の必要性を指摘する。
公立小中高、特別支援の597校12万6236人が調査に参加。要サポートの割合は、全県が11・5%と4年連続で減少した。被災の有無にかかわらない割合は沿岸13・7%、内陸11・0%だった。
このうち、被災した中学生の要サポートの割合は内陸が沿岸を上回った。内陸は15年度16・6%で、2年連続の上昇。特に2年(11年度小学4年)が顕著で、14年度から8・9ポイント増の27・0%となった。沿岸は13・9%で、11年度からほぼ横ばいだ。
県教委は内陸への転校で被災体験が周囲と共有できない孤立感に、勉強や部活など思春期特有のストレスが加わったと分析する。県教委学校教育室の大林裕明生徒指導課長は「震災から5年を経て、やっと怖さや悲しさを話せるようになった子どももいる。他部局との連携も含め、長期的に専門的な対策を考える」としている。(2016/03/24)
2)岩手日報:論説 2016.3.27
http://www.iwate-np.co.jp/ronsetu/y2016/m03/r0327.htm
被災児童生徒の心 オール岩手で支えたい
東日本大震災で被災し、古里を遠く離れて内陸で暮らす子どもたちの心をどう支えていくか。県教委が公表した2015年度の「心とからだの健康観察」調査結果は、重い問いを突き付けている。
調査は震災後の児童生徒のストレス状況を把握するもので、今回が5回目。被災後に内陸で暮らす中学生のうち、教育相談が必要な「要サポート」の割合は16・6%で過去最多となり、沿岸部の中学生を上回った。小学生も、内陸の要サポート割合が14年度より増加した。
心の回復を進める上で、つらい体験を封印せず、自分のペースで向き合っていくことが大切。だが内陸に転居した子どもの場合、体験を周囲には話しづらい。そのため、孤立感を深めている子どもは多いことだろう。
本県では震災後、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーによる支援、ストレス対処法を身に付ける授業などに力を入れてきた。児童精神科領域でも、いわてこどもケアセンター(矢巾町)を中核に、診療ネットワークの構築が進められている。
沿岸と内陸、教育と医療と福祉の垣根を越えて、「オール岩手」で子どもたちの心の回復を支え続けたい。
子どもであれ大人であれ、震災のストレスは長期に及ぶ。阪神大震災の被災者が、東日本大震災の報道をきっかけに心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したケースも報告されている。
災害から時間が経過すればするほど、心の問題と災害との直接的関連は見えづらくなる。大人と比べ、子どもは心身の不調を言語化するのが難しいだけに、きめ細かで長期的なサポートが欠かせない。
もとより、子どもの心の問題は、災害のみに起因するわけではない。思春期特有のストレスもある。全国的にもいじめや自殺の問題が相次ぐ。
県教委の「いわて子どものこころのサポートチーム」スーパーバイザーを務める冨永良喜・兵庫教育大大学院教授は著書「災害・事件後の子どもの心理支援」(14年、創元社)で、「心の健康教育を制度化することこそわが国の緊急の課題」と強調する。
東日本大震災後、被災3県ではそれぞれ、専門職不足などの課題を抱えつつ、子どもの心を支えるための模索が続く。その成果を生かし、学校教育の中に、ストレス対処法を学ぶ授業などをしっかりと位置付けていくべきだろう。
原発事故の影響が深刻な福島県をはじめ、全国各地に長期避難を強いられている子どもたちの孤独な心、深い喪失感にも思いをはせたい。社会全体で、子どもの心への感度を高めていくための取り組みが不可欠だ。
(2016.3.27)
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